欠点検査機について

画像処理

1.目的

社内設備向けRoll to Roll設備の欠点検査機開発を担当していたことがありました。

Roll to Roll設備の欠点検査機とは、アイキャッチ画像にあるような、シート状製品向けての欠点検査機です。

そこで、欠点検査機の導入検討の際、注意すべき点について、私自身の経験を元に、ご紹介したいと思います。

自社設備へ欠点検査機を導入する担当者の参考になれば幸いです。

 

2.欠点検査機とは

部品や製品の表面にある異物や傷などを自動的に発見し処置を促す(例えば、ラインを止める、警報を発報するなど)ことで、不良品を次工程に流すことを防止するための設備を示します。

具体的な手段としては、一般的に、可視光の波長帯域に感度を有するカメラ(以降、単にカメラとする)と可視光を用いて、器物や傷などを検出するものを示すことが多いと思われます。

部品や製品の内部にある異物や欠陥を検出するものは、非破壊検査装置と呼ばれることがあります。この場合カメラではなく、超音波やX線などの特殊な装置になりますので、本投稿では割愛します。

欠点検査機は、カメラで撮像した画像に対する画像処理を施し、画像に対するOK/NG判定を行うことから、画像処理装置、画像処理システムなどと呼ぶこともあります。

 

3.欠点検査機導入の目的

欠点検査機を導入する目的と言えば、省人化、が考えられます。つまり、これまで人が行っていた品質管理を自動化することです。

もしくは、これまで人では検査できなかった工程(例えば高温環境下、危険な工程など)への導入による品質の安定化なども考えられます。

または、人による定性的な評価を、定量化する目的もあるかもしれません。

欠点検査機を導入する前に、「欠点検査機を導入する目的」を明確にすることが、非常に重要な観点だと思います。

4.欠点検査機のケース分け

欠点検査機を導入すると言っても様々なケースありますので、ここでは簡単にケース分けして紹介したいと思います。

欠点検査機を導入するフェーズが、開発のフェーズなのか、検証のフェーズなのか、それとも生産機導入のフェーズなのかを明確にする必要があります。

また、要求性能と予算とを天秤にかけながらメーカーを選定する必要があります。

 

4.1 検査機メーカー

開発・導入・メンテナンスを一括して社外の検査機メーカーに委託するケースがあります。

生産機導入のフェーズで適用することが多いケースです。

相対的に費用は高くなりますが、社内工数は比較的に抑えられると思います。

検査機メーカーと言えば、例えば日本国内では、(株)ヒューテックなどが有名かと思います。

カメラや照明など自社製品を保有しており、(契約次第で)ハードもソフトも含めて性能保証してくれることが大きなポイントです。

メリット

開発・導入・性能保証・メンテナンスを依頼することが可能です。常に一定の検出性能を維持する必要がある生産設備などに導入する欠点検査機では、検査機メーカーを活用することが多いかと思います。また、自社内部に保全部隊が存在しない場合も、検査機メーカーにメンテナンスを委託することが可能な場合もあります(だたし、契約次第となります)。

デメリット

1.相対的にコストが高くなります。

2.要求仕様(性能、機能)によっては、対応できない場合があり、断られる場合があります。もしくは、新規開発する場合は、大きなコストがかかります。

補足

検査機メーカーの中でも、必ずしも自社製品を保有しているメーカーばかりではなく、市販の機器(カメラ・レンズ・画像処理ライブラリ)を組み合わせて、欠点検査機を構築するメーカーもあります。

また、ユーザー側で独自に開発した光学系(カメラと照明の位置関係)や画像処理アルゴリズムを組み込んでくれるメーカーもあります。一見すると、コア技術はユーザー側で抑えて、それ以外を検査機メーカーにて構築してくれるため、非常に便利に思えます。ただし、この場合、検査機メーカーは、性能保証はしてくれなくなるため、お勧めはしません。

4.2 画像処理システムを利用する場合

検査機メーカーを利用するほどではない(主な理由は予算になると思います)が、欠点検査機を導入したい、というケースがあります。

そのようなケースでは、画像処理システムと呼ばれる専用機器を購入する場合があります。

画像処理システムとは、カメラ・レンズ・照明・コントローラー(画像処理を実行する専用のパソコン)・必要なケーブル類がセットになったユニットです。

セットと言っても、カメラであれば、モノクロ/カラー、エリアセンサ/ラインセンサか、必要な画素数など、ユーザーのニーズに対応するため様々なラインナップが用意されており、ユーザーはその中からある程度自由に選択することが可能です(当然、選択肢によってコストが異なります)。

この画像処理システムは、KEYENCE(キーエンス)OMRON(オムロン)Cognex(コグネックス)などが有名かと思います。

メリット

1.欠点検査機に比べるとコストが安い

2.専用のカメラ・レンズ・照明・専用パソコンが用意されていることが多く、各機器の接続性などを気にする必要がない

デメリット

1.互換性が乏しい

例えば、キーエンスのカメラとコントローラーは、キーエンス独自のインターフェースを採用しているため、他社のカメラ(例えばCameraLinkインターフェスのカメラ)などを使用することはできません。

2.出来ることが限られる

画像処理も予めライブラリ内に用意されている処理以外の処理は基本できません。

3.画像処理システムの設置、メンテナンスなどは自社で対応する必要がある。

KEYENCE(キーエンス)OMRON(オムロン)Cognex(コグネックス)は、基本的に画像処理システムの機器単体売りの専門業者です。したがって、画像処理システムを生産現場への取り付けたり、メンテナンスなどは(基本的には)対応してもらえません。そのため、機器の設置は自社で対応するか、システムインテグレータ(SIer)と呼ばれるエンジニアリング会社に委託する必要があります。

4.3 自社開発するケース

カメラ、レンズ、パソコン(含画像処理ライブラリ)などをそれぞれ購入し、組み込みを行う場合です。

マシンビジョン、画像処理、プログラミングなど、多岐にわたりかなり専門的な知識が求められますが、既製品では対応できないような複雑な処理を行う欠点検査機を開発・導入することが可能になります。

欠点検査機開発においても「スモールスタート」という概念は重要であり、自社開発にも一定の価値があると考えています。

カメラ、レンズ、照明、画像処理ライブラリについて、代表的なメーカーを下記します。

カメラ

レンズ

照明

画像処理ライブラリ

番外編

究極のスモールスタートとして。シングルボードPCですが、カメラをつなげばれっきとした欠点検査機になります。ただし、安定性などの面から生産設備への欠点検査機としてはお勧めできません。

メリット

既製品では実現できないようなオリジナルの欠点検査機を開発・導入することが可能。例えば、HALCONとOpenCVとTensorflowなどを組み込んだ欠点検査機なども構築が可能です。

デメリット

1.マシンビジョン、画像処理などかなり専門的な知識が求められる。

2.開発に時間を要する。

3.開発部署が性能保証を担う必要がある。

5.欠点検査機導入時の注意点

欠点検査機は人に及ばず

まず理解していただきたいことは、これまでの経験を踏まえた持論ではありますが、「(現時点の)欠点検査機は人に及ばず」ということです。

(現時点の)と枕詞をつけていますが、近い将来、人と同じ判断ができる欠点検査機が生み出されることを期待しています。

人工知能(AI)、特にDeep Learningが欠点検査機にも組み込まれるようにはなってきてますが、それでも人の性能までには至っていません。

人は、五感(特に、視覚と触覚)をフル活用し膨大な情報を猛烈な速度で並列処理して欠点か否かを判定しますが、欠点検査機はモノクロカメラしかありません。画像では判断できない場合、触診して判断するということも、今のところはできません。

目視で見えているから欠点検査機でも検出できる、と安易に考えていると、意外と欠点を検出できない場合もあります。

欠点検出率100%は達成不可能

欠点検査機を開発する際、「欠点検出率100%」を要求してくるケースがありますが、これは基本的に不可能です。

正確に言うと、「欠点検出率100%」は可能ですが、その副作用として、過(誤)検出数が極めて多くなります。

過検出とは、例えば、「直径1mm以上を欠点」と定義されているのに対して、直径0.8mmのものを欠点として検出してしまうことです。

誤検出とは、正常部を欠点として検出してしまうことです。

「欠点検出率100%」かつ「過(誤)検出数 無き事」などという無茶苦茶な性能を要求されることがありますが、これは現実的に達成不可能な性能であり、このような要求仕様では、検査機の開発・導入は間違いなく上手く進みません。

未知の欠点に対する性能は保証できない

これも多々あることですが、未知の欠点を検出できることを要求してくるケースがありますが、これも基本的に不可能です。

欠点検査機が達成可能なことは、「決められた欠点を決められた条件下で検出できること」であり、それ以上でも以下でもありません。

例えるならば、まだ「ゾウ」と「ネコ」しか知らない幼児に、パンダの写真を見せて、「なぜパンダと答えられないんだ!」と憤る親と同じです。

欠点検査機も人と同様、学んでいないことは、答えられないのです。

検収条件を明確にすること

社外の検査機メーカーを活用して欠点検査機を導入する際に重要なのは、検収条件を明確にすることです。

ここで言う検収条件とは、欠点検査機導入の契約において合意された条件(品質・性能・仕様等)に適合するかどうか、です。つまり、欠点の検出性能(検出率、過(誤)検出数、など)が契約時に定めた要求性能を満たしているかどうかです。

そのためには、事前に欠点の検出性能(検出率、過(誤)検出数、など)を両社で決定する必要がありますし、検出すべき欠点や正常品などを事前に提示する必要があります。

欠点検査機は超精密機器

欠点検査機は常に同じ検出性能を維持できるか、と言われると、そうではありません。

カメラや照明の位置が少しズレただけでも性能は変わってしまいます(たいていの場合、検出性能は落ち、これまでは検出できていた欠点が検出できなくなり、誤検出が多発したりします)。

生産設備に導入する欠点検査機の場合、定期的に校正するなどのメンテナンスも必須です。

導入だけでなく、導入後の維持・保全にも非常に手間暇がかかる設備であるということを理解してください。

 

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